今日の国試直前の動態最重要要点チェック10項目は「排泄」過程です。スライドは1枚では収まりきらずに2枚になりました。ご了解ください。まずは、昨日までの注意と同じです。YouTubeショートの霊夢の「ゆっくり解説」を聞いてから、下の<突っ込んだ解説>を見ないで、頭の中で自分の知識を整理してみましょう。それから「答え合わせ」のつもりで、下の<突っ込んだ解説>スライドを見てください。ちょとでもあやふやな知識があったら、すぐに教科書なり、予備校の参考書を広げて確認しましょう。


なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
<突っ込んだ解説>
排泄です。結構いろいろ重要なことがあって、あれもこれも入れていたらパンクしてしまいそうです。排泄の臓器で頭に浮かぶのは腎臓ですが、ご承知のように「胆汁排泄」があるので肝臓も排泄の臓器になるのですね。なので最初は、出題される薬物が「腎排泄」か?「肝排泄型(肝代謝を受けて胆汁排泄される)」か?がわかる(知っている)ことが大事です。解説スライドの1番では、強心薬のジゴキシンとジギトキシンの違いを例示しましたが、見てわかるように「大違い」で、こんなところも試験に出るかもしれません。
さて、順番に見ていきましょう。まずは排泄器官としての腎臓の微細解剖学、すなわち「ネフロンの構造」がちゃんと理解できているか、から話は始まります。解説スライドでは2番です。104回の必須問題問45で、「薬物の分泌を主として担う構造は何か?」という文章題がありましたが、これなど「腎排泄を担う最低限の解剖学的知識を持っていますか?」という趣旨の出題です。
まずは、「糸球体ろ過」ですが、ここで毛細血管から尿細管に向けて、最初の排出過程である「ろ過」を受けます。ろ過とは言いますが、ろ過される薬物の分子量以外にも、その薬物分子のもつ電荷が影響されるのでしたね。糸球体の基底膜がシアル酸に富んだ糖タンパクで構成されていて、そこが電気的に負に帯電しているので、陽性荷電をもった薬物粒子がろ過を受けやすいという理屈です。あとは、「糸球体ろ過のみを受ける薬物」として、体外物質のイヌリン(注射により体内に入れる)と、筋肉組織の最終産物であるクレアチニンが国試頻出です。後の方で「腎クリアランス」の話をしますが、そもそも「クリアランス」は「速度」の次元を持つパラメーターです。なので、「腎クリアランス(腎排出速度)」=「糸球体ろ過クリアランス(糸球体ろ過速度)」+「尿細管分泌クリアランス(尿細管分泌速度)」―「尿細管再吸収クリアランス(尿細管再吸収速度)」という式が、「一般的な薬物」では成立します。ところが、前述のイヌリンとかクレアチニンは糸球体ろ過しか受けないから、これらの薬物では「腎クリアランス(CLr)」=「糸球体ろ過速度(GFR)」となるのでしたね。国試問題では、時々「・・・の薬物の糸球体ろ過速度は、その薬物の血中薬物濃度に比例する・・・」という表現がされた計算問題が出てきます。これは、「血中薬物濃度」と「糸球体ろ過速度」が比例関係にあることをいっているので、その薬物は、他の尿細管分泌や尿細管再吸収を受けない、ことを意味しているのです。なので、腎クリアランスを計算するときには、CLr = GFRの式を使いなさい、という意味なのです。わかりますか?
次は4番にある、近位尿細管(能動的)分泌です。要は、糸球体ろ過で取り除けなかったような生体にとって不要な薬物(物質)を、能動的におしっこの中に「分泌」してやろうということです。なので、「トランスポーター」が出てきます。OAT, OCTのようなトランスポーターで、有機アニオン、有機カチオンを毛細血管側の尿細管上皮細胞側からいったん上皮細胞内に取り込みます。次に、細胞内にあるこれらのイオンを、P-糖タンパク質のご親戚筋にあたるBCRPやMRPによって尿細管側に「排出」することになります。従って、尿細管上皮細胞の側底膜側にOAT, OCTなどが、刷子縁膜側にP-GPの御親戚筋のトランスポーターが発現していると、というところまで知っておく必要があります。
5番は、近位尿細管再吸収です。これは、わかりやすいんじゃないかと思います。つまり、その前の「糸球体ろ過」で、分子量が小さいために血中から尿中に「意図せず」流れ出てしまった「生体にとって重要な物質」を、尿中から能動的に回収(再吸収)するわけなので、ここに働くトランスポーターの基質は、糖、アミノ酸、ペプチドの類になるわけです。わかりやすいです。この過程での国試必出は、ペプチドトランスポーター(PEPT1)と、アルドヘキソース輸送系(グルコース輸送系)のSGLT1, GLUT1です。PEPT1の基質にセフェム系抗生剤が使われること(5. ①)と、グルコースの再吸収では、SGLT1が尿細管側、GLUT1が側底膜側に発現している、という細かすぎることまで頭に入れておきましょう。
6番の遠位尿細管再吸収は、受動的に行われます。つまり「細胞膜を介した薬物の受動拡散」ということなので、吸収のところで出てきたpH分配仮説やHenderson-Hasselbalchの式が再登場するということです。あと、大部分の水が原尿から再吸収されるということも、常識的な話ですが、確認しておきましょう。
2枚目の重要事項解説スライドにいきますが、7番の「腎クリアランス」の定義と算出法は、ADME「排出過程」の計算問題では「横綱級」の重要ポイントです。腎クリアランスは、肝臓におけるwell-stirred-mpdelと同じようなモデルを使って導出しますが(その過程は、ここでは触れません)、微分的(腎臓の中の薬物量の時間に対する変化速度)に解くと(式1)が得られます。これは覚えてください。国試では、この(式1)がそのまま出てくることはありませんが、この式をグラフにするとどうなるか?が出題されます。具体的には、横軸に血中薬物濃度、縦軸に「腎臓内の薬物の減少速度(-dX/dt)」をとると、どんなグラフが描けて、腎クリアランスはそのグラフのどこを見ればわかるか?という問題です。(式1)で、「-dX/dt」を「y」とおき、「Cin」を「x」とおくと、(式1)は、「y = CLr × x」と変形できますね。ということは、腎クリアランスは、このグラフ(原点を通る正の直線グラフ)の「傾き」になるのです。(式2)は、(式1)の右辺分母子を積分すると得られる式で、こちらが国試腎クリアランス計算問題では圧倒的に重要です。7.③, ④は、書いてある通りでよいでしょう。
8番は、グラフの横軸が注目する薬物の血中薬物濃度、縦軸が「クリアランス」になっている「定番のあのグラフ」です。糸球体ろ過のみを受けるイヌリンは、横軸に平行な直線、糸球体ろ過+尿細管分泌を受ける「p-アミノ馬尿酸」は、「上から下に降りてくるなだらかの曲線で、イヌリンの直線に上から漸近する」、「グルコース」は、下から上に向かってなだらかに上昇する曲線で、イヌリンの直線に下から漸近する」という「あのグラフ」です。ここは「ちゃんと理屈がわかってから、知識として覚えてほしい」のです。グラフの形だけで暗記してしまうと、簡単に引っかかてしまいます。例えば、意地の悪い出題者が、今までの国試問題を変形して、縦軸と横軸を入れ替える、なんてこともやりかねませんからね。
9番と10番は「排出臓器としての肝臓」の話です。肝臓からの薬物の排泄は「胆汁排泄」になりますが、とんなトランスポーターが関与しているか?です。そして胆汁中に排泄された薬物の中には、「腸肝循環」を受けるものがありましたね?このメカニズムは大丈夫ですか?どんな薬物が腸肝循環を受けるものの代表か?言えますか?モルヒネやクロラムフェニコールなどでしたね。
ということで、盛沢山の内容を駆け足で見てきましたが、計算問題が不得手な人は、腎クリアランス計算問題の過去問の「解法」を、もう一チェックしておきましょう。
わかったかな?