分布過程のタンパク質(血清アルブミン)と薬物との結合(相互作用)について、すこし突っ込んだ設問を理論問題レベルで作ってみました。設問1の「TDMが必要か?」という文言の設問意図が読み取れているかが、ちょっと難しいかもしれません。他は、そうですね。「必須以上、理論以下」的な難易度かと思います。3分40秒程の、魔理沙の解説です。
なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
<(107回問43)の派生ゆっくり創作理論問題、の突っ込んだ解説>
分布過程では、血漿タンパク質(血漿と血清は違うものですが、血液中のアルブミンはどちらの画分にも含まれているので、区別はしていません。スライドでは「血清アルブミン」という術語を使っています。)と薬物との結合の基本的な特性と、その結合様式の解析がポイントになります。その意味では、元ネタ107回問43は、基本中の基本と言えますね。従って、タンパク質-薬物間結合特性を突っ込んで勉強して行けば、いろいろ重要で、かつ国試では頻出の事柄が出てくることになります。言い忘れましたが、国試の「薬物動態学Ⅰ分の分布過程で出てくる血清タンパク質は、アルブミン(酸性薬物が結合する)と、α1-酸性糖タンパク質(塩基性薬物が結合する)2つだけと言っても過言ではないので、この2つのタンパク質の特性は、しっかり頭に叩き込んでおきましょう。分子量や血中タンパク質中の存在割合なども言えますか?
さて、問題では「血清アルブミン」のことが聞かれています。まず、このたんぱく質には、薬物との結合部位が3か所(結合サイトⅠ、Ⅱ、Ⅲ)があって、そこに結合する代表的な薬物の名前をとって、各々、ワルファリンサイト、ジアゼパムサイト、ジギトキシンサイト、と言われているのでしたね。だから選択肢4は間違いです。
これらの結合部位に結合する薬物は1つだけではありません。設問1にあるように、結合サイトⅠにはワルファリンの他にも、インドメタシンやフェニルブタゾンなどが結合します。動画の中で魔理沙も言っていたように、わかりやすく言えば、椅子取りゲームということです。一つの椅子に、ワルファリンもインドメタシンも「座りたい」のです。でも座れる椅子は「結合サイトⅠ」という1つの椅子しかありません。では、どうなるのか?座れる方は、「腕っぷしの強い奴」ということになりますよね。「腕っぷしの強い奴が、弱い奴を蹴飛ばして」座ってしまうわけです。この「腕っぷしの強さ」が、薬物動態学的パラメータとしては「K(結合定数)」で表されることになります。大丈夫ですか?なので、設問1では、ワルファリンとインドメタシンの「血清アルブミンに対する」結合定数の大小が問題になるわけですが、これはインドメタシンの方が強いのです。考えてわかるというものではなく、薬の持つ性質ですから、「知っていなければ話にならない」というわけです。となると、結合定数の大きいインドメタシンが「優先的に」血清アルブミンに結合してしまいますから、「追い出された方」の「非結合形」の(ここ重要!)ワルファリンは、急に血中薬物濃度が上昇してしまい、いわば、「薬が効きすぎる」という状態が起こります。ワルファリンは「抗血液凝固薬」ですから、「薬が効きすぎる」とは、すなわち「出血傾向」という副作用が発現してしまうことになります。なので、ワルファリンの血中薬物濃度測定(TDM)が重要になってくるわけです。1番は正解です。
このような、血清アルブミンと薬物の結合は、(これは物理化学の範疇に入りますが)2番にあるような「結合力」によって維持されていますが、血清アルブミンと薬物との結合は「可逆平衡反応」です。条件によって。両者はくっついたり離れたりするということで、くっつきっぱなしではありません。「条件によって」というのは、選択肢1にあるように、自分より結合定数の大きい薬物の存在によって、結合が離れてしまう場合があるということです。よって、1と2が正解です。
選択肢5は、競合的置換(阻害)現象とは、どういうことをいっているのか?が理解できているかどうかを問う問題です。「競合的」とは読んで字のごとく、複数の薬物が「何か」を競い合っている、ことを言うわけですが、ここでいう「何か」とは、血清アルブミンの「結合部位(サイト)」になります。従って、同じ結合サイトに結合する薬物同士では、「競合的置換(阻害)現象」が起こりますが、結合サイトが違えば、「あ、そうですが、あなたはサイトⅡにくっつくのですね?私はサイトⅠですから、ご自由に。」ということになり、両者の間に「競合現象」は起こりません。だから、5は間違いです。
わかったかな?