本日の「ゆっくり国試(理論)問題(108回問174)」のゆっくりショート解説(YouTubeショート:231221)


YouTubeショートで使った問題文は以下です。

なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。

<この問題の突っ込んだ解説>

世の中の現象で「線形性」を示す現象は(ほとんど)ないと、魔理沙の中ヒトの弊社CEOは考えています。一生懸命働いても、年収がどんどん増えていく、ということは(世界の中のほんの一握りの大金持ちを除いて)、まあ普通ないですよね。皆さんは、学生実習でよく「検量線」を書くと思います。普通は、横軸に測ろうとする薬物濃度、縦軸に吸収率をとって測定点をプロットし、それをつなげるときれいな直線になります。「ほらみろ!世の中の現象には、きれいな直線性が存在するじゃないか!」と思うかもしれませんが、それは「線形性が認められるような領域を選んで」検量線を描いているからであって、薬物濃度をどんどん増やしていけば、検量線は「寝て」きます。つまり「非線形性」が見て取れるのです。従って、薬物動態も本質的には「非線形性」を持っているわけですが、あまり複雑なことを考えていくと、薬物動態学の本来探求すべき「未来予測」ができなくなってしまうので、「線形性」の現象に近似して物事を考えていくわけです。いわんや1問を2分30秒で解かなければいけない国家試験では、「とりあえずは、線形1-コンパートメントモデルとして、考えてくださいね。」ということにしないと、試験なんかできなくなります。

それはさておき、では「難しく(しかし、本質である)非線形の前提で、体の中の薬物動態を考えていきましょう」というのが、この問題の作問意図になります。多分。(魔理沙の中の弊社CEOが出題したわけではないので、わかりませんが・・・)

ADMEの各分野では「トランスポーター」や「酵素」が出てきます。これらには「能力の限界(キャパ)」が存在します。トランスポーターの場合は、「薬物輸送の限界を超えた薬物が存在した場合」には、何が起こるか?であり、酵素の場合には「薬物代謝の限界を超えた薬物が存在した場合」には、何が起こるか?を考える必要があります。お薬は、体のなかでは血液に溶けた状態で存在していますが、存在している「絶対量」は変わらないものの、一部は血漿タンパク質に結合したりしているので、「薬効を持つ非結合形の(もしくは、代謝を受けない未変化体の)薬物量」が、「非線形条件下」でどうなるのか?を考えなければいけません。

選択肢1は代謝過程における非線形の話ですね。つまり、薬物代謝酵素の代謝能力を超えた薬物が存在した時、「通常の(代謝能力を超えない)状態」に比べて、代謝を受けない「薬効を持った」薬物量」は、増えることになります。こういう状態では、薬物投与量が増えると、血液の単位体積当たり、代謝されない薬物量が増えていきます。つまり、投与量が少ない場合に比べて、血液中には「本来は排出され消えてなくなるはずの薬物」が、多く存在していることになるので、それらは「なかなか排出されずに、体内に残ること」が予想されます。よって「全身クリアランス」は低下します。

選択肢2は分布過程の非線形性現象(飽和現象)の話です。血漿タンパク結合が飽和するわけなので、血中の「非結合形」薬物量は増加します。すると、それらは「行き場をうしなう」ことになり、臓器・組織へ行ってそこのタンパク質とくっついて、「臓器・組織結合形」薬物として存在することになりますよね。すると、「分布過程での血漿タンパク結合が起こる前」に比べて、血中に存在する薬物量は減ることになるわけですが、本来は排出過程で担われる「薬物の消失」現象が、臓器・組織タンパク質によって「肩代わりされてしまう」ことになります。なので、見かけ上、体の中から薬物が消えてなくなったように見え、全身クリアランスは高くなることになります。ややこしいですね。

選択肢3の前半部分は、選択肢の文言は違っていますが、実は選択肢1と全く同じことを言っていますよね。ただ、3番は「分布容積がどうなるか?」を聞いています。「薬物代謝酵素に飽和が起こる」わけですから、血中に存在する「薬理活性のある薬物」量は増加します。そうすると、ここから後は、実は選択肢2の「ひっかけになってくる」のですが、それらの薬物は「何事もなかったように、体内を循環する」だけで、選択肢2にあるように、臓器・組織タンパク質へ移行することはありません。「結合形vs非結合形」の話ではなく、「未変化体vs代謝物」の話なのです。魔理沙の中の弊社CEO的には、選択肢2の「結合形vs非結合形」の問題の後に、この「未変化体vs代謝物」の問題を持ってきたというのは、「引っ掛け」を狙ったいやらしい出題だと思います。

選択肢4は、吸収過程で消化管の薬物代謝酵素に飽和が起こった場合の話です。その場合は、当然血中に入る薬物のバイオアベイラビリティーは増加しますよね。ただ、注意しなければいけないのは、「薬物のバイオアベイラビリティーが増加する」ということは、「血液循環系に入る「未変化体量」の全薬物量に対する割合は増加するが、薬物の総量は変化しない」ということです。従って、全身クリアランスは「変化しない」が正解です。

選択肢5では、排泄過程の中の尿細管分泌の飽和現象の話です。尿細管分泌はトランスポーターによって行われますが、これが飽和するわけだから、血液中には「本来、尿中に移行してからだから消えてなくなるはずの薬物」量が増えることになります。従って、薬物の尿細管からの「排出されやすさの目安」としての尿細管分泌クリアランスは、低下することになります。これは、簡単な選択肢でしたね。

よく考えれば正解に到達するのは難しくないですが、「ぱっと見、引っかかりやすい」問題です。文章題の理論問題としては、良問といってよいと思います。

わかったかな?


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