YouTubeショートで使った問題文は以下です。(今回は、解説スライドはありません)

なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
<この問題の突っ込んだ解説>
薬物の排泄経路における「腸肝循環」の問題です。まずは、腸肝循環について基本的な事柄を復習しておきましょう。「読んで字のごとく」ですが、「薬物が、(小)腸と肝臓の間を行ったり来たりする」ということですね。当たり前です。まずは「腸肝循環がなぜ重要になるか?」ということと、「どんな薬物が腸肝循環を受けやすいのか?」という2点がポイントになります。
「なぜ腸肝循環が重要になるか?」ですが、薬物が小腸と肝臓の間を行ったり来たりする」のですから、なかなか薬物が体外に排出されないことになり、つまり「血中濃度が減っていかない」ということです。従って、その薬物が腸肝循環を受ける薬物であることを知らずに投与を続けると、血中薬物濃度の上昇が続き思わぬ副作用が発現する危険をはらんでしまうことになります。では、どんな薬物が腸肝循環を受けやすいか、ですが、国試対策としてはモルヒネ、クロラムフェニコール、ジゴキシン、アセトアミノフェン、ドキソルビシンなんかを覚えておけばよいと思います。後述しますが、第Ⅱ相反応で「グルクロン酸抱合」を受ける薬物です。
腸肝循環の起こるメカニズムですが、薬物が肝臓で代謝を受けた後、胆汁中に代謝物が排泄されます。このとき、胆汁は胆管から腸管系に排泄されていきます。十二指腸付近に胆管の開口部があるわけですが、代謝物はそこから出た後に小腸、大腸へと流れ最終的には糞便になって体外に出ていきます。ところが、腸管系には常在細菌叢があり(この主な構成微生物は大腸菌)大腸菌は「菌体外酵素」として、β-グルクロニダーゼを「菌体外」に排出します。この常在細菌叢を構成する大腸菌にとっての「菌体外」とは、すなわち腸管腔になります。ところで、肝臓から「代謝物」として排泄される薬物は、肝臓内の薬物代謝酵素によって「第Ⅰ相反応」「第Ⅱ相反応」を受けるわけですが、この第Ⅱ相反応はなんでしたっけね?そう「抱合反応」ですよね。ということで、抱合反応のなかの「グルクロン酸抱合」を受けて代謝物となって胆汁酸中に排泄される薬物があるわけです。つまり、上述した「腸肝循環」を受けやすい薬物とは、この「グルクロン酸抱合」を受ける薬物になるのですね。
さて、話は元に戻りますが、(例えばモルヒネに代表されるような)グルクロン酸抱合を受けた薬物が胆汁中から腸管内に排泄されたとき、腸管の中には大腸菌によって体外に放出された酵素である「β-グルクロニダーゼ」がいっぱいあることになります。この酵素は、そんで時のごとく、グルクロン酸を加水分解する酵素です。ということは「肝臓の第Ⅱ相反応でグルクロン酸抱合された薬物は、そのグルクロン酸がβ-グルクロニダーゼによって加水解されて外されてしまう」わけですから、第Ⅱ相反応を受ける前の「未変化体」に戻ってしまいます。このように「元も戻った」薬物は、腸管系から再び吸収を受け「門脈を通って肝臓に戻って、また代謝される」ということを繰り返します。これが腸管循環のメカニズムです。なので、横軸に時間、縦軸に血中薬物濃度(未変化体として)をとってグラフを描くと、みなさんが教科書や予備校の参考書でよく見る、いわゆる「二峰性」のグラフとなります。ただしです。論文を調べてみても、「ぱっと見、明らかにそれとわかる二峰性の血中薬物濃度曲線」は、そうそうお目にかかれるものではなく、最初のピークがブロードになるようなものもあることは、ちょっと頭の隅においてもらって損にはならないと思います。(国試には、こういう「裏話」は出てきませんよ。)
ということで問題文選択肢をみてみると、1番の「胆管閉塞で・・・」というのは、全くのでたらめで、そもそも「胆管閉塞症」というのは新生児や乳児に起こる病態で、かなり重い疾患です。調べてみてください。ナンセンス選択肢です。2番の「抗菌薬・・・」というのは、恐らく「クロラムフェニコール」のことを指していると思いますが、クロラムフェニコールは現在ではほとんど使われていない抗生物質であることは知っておく必要があります。3番は、うっかり「〇」をつけたくなる「ひっかけ問題」です。「腸肝循環」ですから「腸」が出てくるので、経口投与された薬限定話か?と思いがちですが、肝臓で代謝受けるのは、投与された全ての薬物(肝代謝型)であることに注意すべきで、静注投与された薬物でも肝臓で第Ⅰ相、第Ⅱ相反応を受けるわけですから、これは「×」ということになります。4番は上記の説明の応用ということになりますが、β-グルクロニダーゼが阻害を受けるということは、腸管内のβ-グルクロニダーゼより「代謝物」が「未変化体」に戻ることはないわけですから、腸管系から再吸収されることもなくそのまま体外に糞便として排泄されます。よって、血中半減期は短くなります。5番が正解であるのは、上述の説明によりわかると思います。
わかったかな?
みなさん、よいお年を!