YouTubeショートで使った問題文と解説スライドは以下です。


なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
(YouTubeショート動画の問題文・解説スライドおよび<この問題の突っ込んだ解説>のスライドは、薬学部の現役学生の方、次回の薬剤師国家試験を受験される予定の方はダウンロードしてお使いになっていただいて構いません。なお、大学教育関係者の方、薬剤師国家試験受験予備校関係者の方でスライドのダウンロードご希望の方は、本HPの「お問い合わせホーム」から弊社宛、事前にご連絡ください。また弊社HPトップページには、本年3月31日までの期間限定で「110回薬剤師国家試験への早割のお知らせ」を掲載しました。是非ご検討ください。)
<この問題の突っ込んだ解説>
胆汁中排泄の文章題です。最初に確認しておきたいのは「肝臓は代謝の臓器であると同時に排泄の臓器でもある」ということですね。これは大丈夫ですよね。これ「いやぁ~そうだったんですか?」という人がいたら、「あちゃ~」ですよ。そして、その「排泄の臓器」たるゆえんが、「薬物の胆汁中排泄」ということになります。
さて、肝臓といっても、薬物動態学で注目されるのは「肝小葉」です。差し渡しが1㎜くらいの6角形の構造をしている構造体ですが、これが「肝臓」の実質的な最小単位になります。この肝小葉に中に、いわゆる「肝細胞」がびっしり詰まっていて、その中の「分泌顆粒」が胆汁を作っているわけです。肝小葉の6角形構造は、中心に「毛細胆管」が走っていて、肝細胞で作られた胆汁は、この毛細胆管に集められ、その後、解説スライドの1. ②にあるようなルートを通って胆嚢に集められます。そして、胆管から十二指腸に排出され、小腸、大腸の腸管系から糞便となって体外に排出されることになります。106回問45では「腸肝循環を受ける薬物は?」という問題が出ていて、その解説でも詳しくお話ししているので、知識があやふやな人はそちらを見ていただきたいのですが、胆汁排泄によって腸管系に排出された薬物のなかには「腸肝循環」をうけるものもあります。この問題でも、選択肢4で「腸肝循環を受けた薬物のAUCはどうなりますか?」という設問が出ていますが、胆汁中排泄を受ける薬物の中で(代表はモルヒネ)、グルクロン酸抱合を受けているものがあります。すなわち、第二相反応の中でグルクロン酸を親分子にくっつけられたものですが、このような分子は、胆管から腸管内に排出された後、常在細菌叢中の大腸菌が菌体外に排出して「β-グルクロニダーゼ」によって、グルクロン酸基が外されます(脱抱合)。その結果、薬理活性のある親化合物に変化し、再び小腸から門脈と経由して吸収されることになるので、「血中薬物濃度」はなかなか減らないことになります。よって、AUCの値は増加するわけですが、選択肢4では、この「グルクロン酸を脱抱合するβ-グルクロニダーゼを阻害する」わけですから、グルクロン酸抱合を受けた薬物はそのまま糞便中の排出されることになり、よってAUCは減少するのですね。なので、4番は×となります。
先に選択肢の解説をしてしまって、ちょっと話の順番が後先になりました。この「肝小葉」中の肝細胞を取り囲む毛細血管は、特徴的な構造をしているのですが、覚えていますか?そうですね、「不連続内皮構造」をとっていて、毛細血管中の薬物は「すかすか」に内皮構造を通り抜け、容易に肝細胞に接触できるのです。ちなみに、毛細血管壁と肝細胞の間には「空間」があり、これを「ディッセ腔」といいます。さて、薬物はこのディッセ腔から肝細胞の中に侵入しますが、受動拡散による侵入の他にトランスポーターを介した侵入があります。これには解説スライド3. ①にあるように、有機アニオン輸送系(OAT)と有機カチオン輸送系(OCT)の2つのトランスポーター群(いずれもSLC系トランスポーター)が関与し、ここは国家試験によく出題されます。
さて、肝細胞の中に入った薬物は、細胞内で薬物代謝酵素による代謝を受けるのですが、その後は「肝小葉」の6角形の真ん中を走行する「毛細胆管」に向かって排出を受けることになります。この時に使われるトランスポーターが、問題文選択肢1にあるような「ABC系」トランスポーター群であって、具体的にはP-糖タンパク質とその「御親戚筋」にあたるMRP, BCRPのようなトランスポーターです。なお、これらは「一次性能動輸送担体」であって、駆動のエネルギーはATPの加水分解エネルギーです。つまり、薬物は毛細血管から肝細胞の中に入るときには「有機アニオン、カチオントランスポーター」を、肝細胞から毛細胆管に入るときには「ABC系のトランスポーター」を使うのですね。
解説スライドでは直接解説していませんが、選択肢5の「クリアランス」もどきの選択肢は、本当に基本的な事柄ですね。「クリアランス」とは、その臓器なり組織なり全身なりが「単位時間にクリアにする薬物が溶け込んでいる血液の容積」でした。なので、例えば「全身クリアランス」を例にとると、それは「全ての臓器、組織クリアランスの総和」になるわけですね。従って、「肝クリアランス」について考えれば、それは「肝臓がクリアにするすべての要因の総和」になるわけですから、「代謝クリアランス」だけではなくで、「胆汁中への排泄クリアランス」も当然含まれている、とくことになります。「クリアランス」の本質が理解できていれば、なんのことはない問題です。
ということで、解説スライドには、胆汁排泄に係る重要な点をトランスポーターに焦点を置いてまとめておきました。
わかったかな?