YouTubeショートで使った問題文と解説スライドは以下です。


なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
(YouTubeショート動画の問題文・解説スライド、および以下の<この問題の突っ込んだ解説>の解説は、薬学部の現役学生の方、次回の薬剤師国家試験を受験される予定の方はダウンロードしてお使いになっていただいて構いません。なお、大学教育関係者の方、薬剤師国家試験受験予備校関係者の方でスライドのダウンロードご希望の方は、本HPの「お問い合わせホーム」から弊社宛、事前にご連絡ください。また弊社HPトップページには、本年5月31日までの期間限定で「110回薬剤師国家試験に向けた「新学期応援フェア」のお知らせ」を掲載しました。是非ご検討ください。)
<この問題の突っ込んだ解説>
この問題を見て、魔理沙の中の弊社CEOが真っ先に思ったのは「問題の文章をきちんと書いてくれ!と出題者に言いたい」、ということです。問題文は不親切であり、ぶっきらぼうです。「以下の表にある代謝酵素のpoor metabolizerにおいて、基質となる薬物の薬効が低下する場合、薬物と代謝酵素の組合せとして正しいのはどれか。」ではないか?と思いますけどね。いきなり「poor metabolizerにおいて・・・」といわれてもねぇ~。この問題ではありませんが、昔々、国家試験問題を評価するある全国レベルの会合において、「問題の聞き方が丁寧ではありませんね」という趣旨の発言をされた先生かいらっしゃいました。その場にいた弊社CEOは「もっともだな」と思ったんですが、ある、とてもとても偉い大先生が「ちみぃ~。そんなことはねえ~、薬剤師になろうっていうもんが知ってて当たり前だろ!」と一括され、結局、その会議の司会者は「じゃやあ、次の議題に移りましょうか」と言ってしまいました。でもね、「薬剤師になろうとする人間に、本当に薬剤師にふさわしい能力があるかどうかを試験する国家試験」なのですから、やはり誰が読んでも納得がいく、きちんとした日本語での試験問題を作る、ということが試験委員の「とても偉い先生方」の責務だと思います。
さて、ボヤキはともかく、例によっての「暗記もん」の代謝の問題です。とはいっても、完全の丸暗記が問われているかといえば、必ずしもそうではなく、少なくとも「poor metabolizer」がなんであるのかを知らないと「お話にならない」ということです。これが第一段階、その次は「丸暗記もん」の、代謝酵素と基質薬物の組合せです。
まずpoor matabolizerですが、ADMEの代謝分野の中の「薬理遺伝学」という分野のお話です。CYPに代表される代謝酵素は「酵素」ですから、タンパク質です。タンパク質はアミノ酸の集合体(1次構造、2次構造、3次構造、4次構造の区別がちゃんと言えますか?)です。アミノ酸の前駆物質は何ですか?mRNAですよね。それが細胞質で「翻訳」されてアミノ酸の1次構造になるのでしたね。では「mRNAの前駆物質」は?そうです。DNAです。このようにDNA→mRNA→アミノ酸→タンパク質と、遺伝情報が伝わっていくことが「セントラルドグマ」といわれ、あのDNA二重らせん構造の発見者である「ワトソン・クリック」のクリック大先生が言い出した言葉です。
このように、タンパク質の情報(アミノ酸の1次構造)はDNAに書き込まれているのですが、例えばCYP2D6は、僕もあたしも、おじいちゃんもおばあちゃんも万人が持っている薬物代謝酵素ですが、その「DNAレベルでの情報(塩基配列)」には、「個人差」が存在しています。これを「1塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms:SNPs)」といいます。まあ、「遺伝子レベルでの個性」ということです。ただ、その頻度は「特定の集団で1%以上の割合で塩基配列が違っている場合」にSNPsがある、と判断します。さて、DNAがアミノ酸になる最初の「転写」過程では、DNAのコドンを3つを1組として転写が行われますが、wobble(コドンのゆらぎ)によって、1つのコドンの2番目と3番目の塩基のmRNAへの転写における厳密性は、さほど重要ではありません。これは遺伝暗号表を見ればわかるように、1つのアミノ酸に対応するコドンは複数個あるからです。また、
上述のように、薬物代謝酵素のような「機能を持ったタンパク質」では、3次、4次の立体構造が機能に大きく関わるわけですが、仮にアミノ酸の1次構造のどこかのアミノ酸が変わっていても、全体的な立体構造に大きな影響が出ない場合があるのです。ただそうはいっても、本来あるべき正常なアミノ酸の一次構造とは違うわけですから、そのような「違ったアミノ酸」を無理やり3次元、4次元の構造に組んでみても、正常な酵素とは若干異なった立体構造を持った酵素が誕生することになります。なので、正常な酵素の活性を100とすれば、SNPsがある酵素の活性は50とか10とかというように、活性が弱くなります。これが「poor metabolizer」の分子生物学的な説明(かなり大雑把ですが)になります。もっとも、逆にSNPsによる酵素の立体構造の変化が、結果的に「高活性」になることもあり、これが「extensive metabolizer」になるのです。また、このような「遺伝的多型に基づく酵素活性の変動」は、個人レベルのみならず、人種レベルでも起こることが広く知られており、それが国試文章題頻出の「イソニアジド代謝の人種間相違」になります。
さて、問題に帰りますが、代謝酵素はCYP1A2, 2C9, 2C19, 2D6と、CYPの中ではSNPsがあることが知れている「有名どころ」ばかりで、あとのUGT1A1(UDP-グルクロン酸転移酵素)は、モルヒネのグルクロン酸抱合に係る酵素で、これもSNPsの存在が知られている重要な酵素です。となると、問題文の「酵素」の5択は、すべてSNPsの存在が知られている酵素なので、今度は「基質薬物」のなかに、「その薬物を代謝する酵素のPM(代謝活性の低下)によって、薬効が低下するものがあるか?」という、まったくの「暗記もん」の知識が問われることになるのですね。では、順番に見ていきましょう。
1. チザニジン。中枢性のα2受容体刺激による神経伝達の抑制の効果があるアドレナリン薬。筋弛緩薬。GABA放出増加による神経活動の抑制効果もある。代謝酵素はCYP1A2です。従ってPMでは代謝が抑制されるので薬効は増大します。×。
2.ワルファリン。抗血液凝固薬でCYP2C9により代謝されます。よってPMではワルファリン代謝は阻害され、血中濃度の上昇による薬効増大が起こります。
3.クロピドグレル。抗血小板薬であり、虚血性脳血管障害や閉鎖性動脈硬化症などに適応があります。ただし、CYP2C19の代謝によって2-オキソクロピドグレルを経てH4と呼ばれる「活性代謝物」に変化し、これが薬効を示します。なので、主たる代謝酵素であるCYP2C19のPMでは、活性代謝物が作られにくいことになり、薬効が低下するわけです。しかし、重箱の隅をつつくような問題で、ため息が出てしまいますよね。この薬理作用を知らなくても、消去法で他の選択肢を消せは、正解できるかもしれませんが。
4.イミプラミンの代謝経路は、教科書や参考書にも必ず描いてある、国試頻出問題です。というのは、経路が2つあって、CYP2D6では2-ヒドロキシイミプラミンに、CYP1A2で活性代謝物であるデシプラミン(活性代謝物)に変換されます。問題文では、CYP2D6のPMということなので、相対的にCYP1A2にいく経路の比重が多くなり、デシプラミンという活性代謝物が多く作られるわけですから、「薬効は増加」します。×。
5.イリノテカン。DNAトポイソメラーゼを阻害する、植物アルカロイド由来の抗がん剤です。代謝はUGT1A1によるので、他の選択肢同様、UGT1A1のPMでは、代謝されなくなるので血中薬物濃度が上昇し、薬効は増加します。×。
どうですか?わかったかな?