YouTubeショートで使った問題文と解説スライドは以下です。


なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
(YouTubeショート動画の問題文・解説スライド、および以下の<この問題の突っ込んだ解説>の解説は、薬学部の現役学生の方、次回の薬剤師国家試験を受験される予定の方はダウンロードしてお使いになっていただいて構いません。なお、大学教育関係者の方、薬剤師国家試験受験予備校関係者の方でスライドのダウンロードご希望の方は、本HPの「お問い合わせホーム」から弊社宛、事前にご連絡ください。また弊社HPトップページには、本年5月31日までの期間限定で「110回薬剤師国家試験に向けた「新学期応援フェア」のお知らせ」を掲載しました。是非ご検討ください。)
<この問題の突っ込んだ解説>
腸肝循環の問題です。腸肝循環の問題は、106回問45に腸肝循環する薬物を選ぶ問題(モルヒネ)、107回問173に腸肝循環の特徴を2つ選ばせる問題、が出ていますが、この問題は「腸肝循環を受ける薬物が移動する経路」を選ばせる問題で、必須問題としては妥当な問題でしょう。ポイントは、「血液中から肝臓に薬物が流入して(薬物がどのような投与経路から体内に入ったかは問題ではない)、そこで第Ⅰ相、第Ⅱ相代謝反応をうけ、一部のグルクロン酸抱合を受けた薬物は胆汁中に溶け込み、そこから胆管を経由して十二指腸へ分泌され、すると腸内細菌叢の中の大腸菌が分泌する菌体外酵素であるβ-グルクロニダーゼによって、グルクロン酸が脱抱合され、活性が回復した元化合物になり、それが再び腸管系から吸収され、門脈を経てまた肝臓に戻る。」という、長ったらしい動態をいうのでした。このメカニズムが理解できていれば問題はないはずです。なので、正解は4番です。以下の<この問題の突っ込んだ解説>は、107回問173の解説を再掲したものです。
107回問173の<この問題の突っ込んだ解説>再掲
薬物の排泄経路における「腸肝循環」の問題です。まずは、腸肝循環について基本的な事柄を復習しておきましょう。「読んで字のごとく」ですが、「薬物が、(小)腸と肝臓の間を行ったり来たりする」ということですね。当たり前です。まずは「腸肝循環がなぜ重要になるか?」ということと、「どんな薬物が腸肝循環を受けやすいのか?」という2点がポイントになります。
「なぜ腸肝循環が重要になるか?」ですが、薬物が小腸と肝臓の間を行ったり来たりする」のですから、なかなか薬物が体外に排出されないことになり、つまり「血中濃度が減っていかない」ということです。従って、その薬物が腸肝循環を受ける薬物であることを知らずに投与を続けると、血中薬物濃度の上昇が続き思わぬ副作用が発現する危険をはらんでしまうことになります。では、どんな薬物が腸肝循環を受けやすいか、ですが、国試対策としてはモルヒネ、クロラムフェニコール、ジゴキシン、アセトアミノフェン、ドキソルビシンなんかを覚えておけばよいと思います。後述しますが、第Ⅱ相反応で「グルクロン酸抱合」を受ける薬物です。
腸肝循環の起こるメカニズムですが、薬物が肝臓で代謝を受けた後、胆汁中に代謝物が排泄されます。このとき、胆汁は胆管から腸管系に排泄されていきます。十二指腸付近に胆管の開口部があるわけですが、代謝物はそこから出た後に小腸、大腸へと流れ最終的には糞便になって体外に出ていきます。ところが、腸管系には常在細菌叢があり(この主な構成微生物は大腸菌)大腸菌は「菌体外酵素」として、β-グルクロニダーゼを「菌体外」に排出します。この常在細菌叢を構成する大腸菌にとっての「菌体外」とは、すなわち腸管腔になります。ところで、肝臓から「代謝物」として排泄される薬物は、肝臓内の薬物代謝酵素によって「第Ⅰ相反応」「第Ⅱ相反応」を受けるわけですが、この第Ⅱ相反応はなんでしたっけね?そう「抱合反応」ですよね。ということで、抱合反応のなかの「グルクロン酸抱合」を受けて代謝物となって胆汁酸中に排泄される薬物があるわけです。つまり、上述した「腸肝循環」を受けやすい薬物とは、この「グルクロン酸抱合」を受ける薬物になるのですね。
さて、話は元に戻りますが、(例えばモルヒネに代表されるような)グルクロン酸抱合を受けた薬物が胆汁中から腸管内に排泄されたとき、腸管の中には大腸菌によって体外に放出された酵素である「β-グルクロニダーゼ」がいっぱいあることになります。この酵素は、そんで時のごとく、グルクロン酸を加水分解する酵素です。ということは「肝臓の第Ⅱ相反応でグルクロン酸抱合された薬物は、そのグルクロン酸がβ-グルクロニダーゼによって加水解されて外されてしまう」わけですから、第Ⅱ相反応を受ける前の「未変化体」に戻ってしまいます。このように「元も戻った」薬物は、腸管系から再び吸収を受け「門脈を通って肝臓に戻って、また代謝される」ということを繰り返します。これが腸管循環のメカニズムです。なので、横軸に時間、縦軸に血中薬物濃度(未変化体として)をとってグラフを描くと、みなさんが教科書や予備校の参考書でよく見る、いわゆる「二峰性」のグラフとなります。ただしです。論文を調べてみても、「ぱっと見、明らかにそれとわかる二峰性の血中薬物濃度曲線」は、そうそうお目にかかれるものではなく、最初のピークがブロードになるようなものもあることは、ちょっと頭の隅においてもらって損にはならないと思います。(国試には、こういう「裏話」は出てきませんよ。)
ということで問題文選択肢をみてみると、1番の「胆管閉塞で・・・」というのは、全くのでたらめで、そもそも「胆管閉塞症」というのは新生児や乳児に起こる病態で、かなり重い疾患です。調べてみてください。ナンセンス選択肢です。2番の「抗菌薬・・・」というのは、恐らく「クロラムフェニコール」のことを指していると思いますが、クロラムフェニコールは現在ではほとんど使われていない抗生物質であることは知っておく必要があります。3番は、うっかり「〇」をつけたくなる「ひっかけ問題」です。「腸肝循環」ですから「腸」が出てくるので、経口投与された薬限定話か?と思いがちですが、肝臓で代謝受けるのは、投与された全ての薬物(肝代謝型)であることに注意すべきで、静注投与された薬物でも肝臓で第Ⅰ相、第Ⅱ相反応を受けるわけですから、これは「×」ということになります。4番は上記の説明の応用ということになりますが、β-グルクロニダーゼが阻害を受けるということは、腸管内のβ-グルクロニダーゼより「代謝物」が「未変化体」に戻ることはないわけですから、腸管系から再吸収されることもなくそのまま体外に糞便として排泄されます。よって、血中半減期は短くなります。5番が正解であるのは、上述の説明によりわかると思います。
わかったかな?