YouTubeショートで使った問題文と解説スライドは以下です。


なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。
(YouTubeショート動画の解説スライドおよび<この問題の突っ込んだ解説>にある解説は、薬学部の現役学生の方、次回の薬剤師国家試験を受験される予定の方はダウンロードしてお使いになっていただいて構いません。なお、大学教育関係者の方、薬剤師国家試験受験予備校関係者の方でスライドのダウンロードご希望の方は、本HPの「お問い合わせホーム」から弊社宛、事前にご連絡ください。また弊社HPトップページには、本年7月15日から8月30日までの期間限定で開講する「速習・薬物動態学5日間コース」のお知らせ」を掲載しました。是非ご検討ください。)
<この問題の突っ込んだ解説>
この問題は衛生化学の問題ですが、ヒトの抱合反応の様式ということで薬物動態の代謝の部分と「まるかぶり」ですのでやってみましょう。抱合反応においてどんな中間体が出現するのかが問われているわけですから、各種抱合反応に出てくる酵素と反応の概要を理解しておくことが必要です。抱合反応の基本は、グルクロン酸、硫酸、グルタチオンやアミノ酸等の生体内成分(抱合剤)によって、薬物をより水溶性にすることです。この抱合反応を触媒するのが抱合系酵素といわれる酵素類です。以下で重要な酵素類を見ていきます。
①グルクロノシルトランスフェラーゼ。グルクロン酸抱合を触媒する酵素で、正式名称はウリジン二リン酸-グルクロン酸転移酵素(UDP-glucronosyltransferase, UGT)です。これにはUGT1とUGT2があります。UGT1は内在性基質のビリルビン、女性ホルモンや男性ホルモン、セロトニンやチロキシンなどをグルクロニド化します。UGT2はこれらの性ホルモンの他、胆汁酸、リノール酸、レチノイン酸などを基質とします。外来性の薬物では、フェノール、アミノ基、カルボキシル基を持つものをグルクロニド化します。グルクロン酸抱合体(グルクロニド)は、抱合を受ける薬物の水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基などの官能基の性質から、O-グルクロニド、N-グルクロニド、S-グルクロニドに大きく分けることができます。国試レベルの重要点といえば「モルヒネのグルクロン酸抱合体」です。モルヒネには3-グルクロニドと6-グルクロニドがありますが、鎮痛活性を持つのは6-グルクロニド(活性代謝物)というのは、頻出ですね。
➁スルホトランスフェラーゼ。別名は硫酸転移酵素です。硫酸抱合はグルクロン酸抱合に次いで生体内でよく起こる反応です。活性硫酸である3’-ホスホアデノシン―5’ホスホ硫酸(3’-phosphoadenosine-5’-phosphosulfate(PAPS))を可溶性画分に存在するスルホトランセフェラーゼ(sulfotransferase)(硫酸転移酵素)が薬物に渡して抱合体を形成するものです。この過程で出てきた「PAPS」が「活性硫酸」といわれています。活性硫酸の本名は知っておいた方がよいでしょう。よって、選択肢4は「抱合反応に利用されている」ので、×です。
③グルタチオンS-トランスフェラーゼ(glutathion S-transferase: GST)。ニトロ基、ハロゲン、エポキシドやα、β不飽和ケトンなど、電子吸引性の強い官能基を含む薬物は、グルタチオンやγ-グルタミル-システィニル-グリシンと反応してグルタチオン抱合体を形成します。この抱合体は段階的に加水分解されてシステイン抱合体となり、最終的にはN-アセチル化され、メルカプツール酸と呼ばれるN-アセチルシステイン誘導体となって尿中に排出されます。なので、選択肢3の「メルカプツール酸」は、「代謝物」なのですね。よって、これが正解(抱合反応に利用されない)ということです。
④N-アセチルトランスフェラーゼ(アセチル基転移酵素)。アセチル抱合の主役になる酵素です。アセチル抱合はグルクロン酸抱合や硫酸抱合と並んで、多くの動物種で見られる反応です。この反応のメカニズムは、まずアセチルCoAのアセチル基がN-アセチルトランスフェラーゼに転位されて、アセチル-N-アセチルトランスフェラーゼになり、次に基質のアリールアミンがアセチル-N-アセチルトランスフェラーゼによりアセチル化され、酵素のN-アセチルトランスフェラーゼが再生するというものです。ここまで詳しく覚えておく必要はまったくありませんが、要は「アセチル基転酵素が司るアセチル抱合では、アセチル基の供与体としてアセチルCoAが使われる」ということを頭に入れておけばよいでしょう。従って、選択肢2のアセチルCoAは間違いです。
⑤アミノ酸抱合。カルボキシル基を持つ化合物は、アミノ酸のα-アミノ基との間にアミド結合を形成して抱合体となりますが、この時利用されるアミノ酸は、ヒトではグリシン、タウリン、グルタミンです。なので、アミノ酸抱合は別名タウリン抱合とも呼ばれています。したがって、選択肢5.のタウリンは「ヒトの抱合反応で利用される」アミノ酸です。
⑥メチル基転移酵素(メチルトランスフェラーゼ)。アミノ基、水酸基またはチオール基を持つ薬物はメチル化を受け、対応するN-, O-, S-メチル化体を形成します。メチル基供与体はメチオニンがメチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(methionine- adenosyltransferase)とATPで活性化されたS-アデノシルメチオニン(S-adenosyulmethionine)であり、これをメチルトランスフェラーゼが基質薬物に転移することになります。よって、選択肢1のS-アデノシルメチオニンは「抱合反応に利用される」というこになります。
衛生化学分野からの出題だからでしょうか、「抱合反応の反応過程で出てくる役者」を知っていなければならなくて、必須問題とは言えちょっとマニアックな感じがしますね。
わかったかな?