本日の「ゆっくり国試(理論)問題(100回問169)」のゆっくりショート解説(YouTubeショート:240829)


YouTubeショートで使った問題文と解説スライドは以下です。


なお「ゆっくり魔理沙と霊夢」の声は、AquesTalkのライセンスID:AQALCNTUSR01202371によります。

(YouTubeショート動画の解説スライドおよび<この問題の突っ込んだ解説>にある解説は、薬学部の現役学生の方、次回の薬剤師国家試験を受験される予定の方はダウンロードしてお使いになっていただいて構いません。なお、大学教育関係者の方、薬剤師国家試験受験予備校関係者の方でスライドのダウンロードご希望の方は、本HPの「お問い合わせホーム」から弊社宛、事前にご連絡ください。また弊社HPトップページには、本年7月15日から8月30日までの期間限定で開講中の「速習・薬物動態学5日間コース」のお知らせ」を掲載しています。是非ご検討ください。

<この問題の突っ込んだ解説>

新生児・乳児・小児の薬物動態は成人のそれとは異なるだろう、ということは、容易に想像できるし、また事実そうであることが報告されているわけですが、この問題も「随分と細かい問題だね」という問題です。国家試験の問題としては「重箱の隅をつつくような」問題で、「代謝マニア」の先生がお出しになった問題なのでしょう。その意味においては、某予備校の正答率を見ると10%程度だったそうなので、「どうだ!吾輩の作った問題は難しかっただろう!解けるもんなら解いてみろ!」とほくそ笑んだかどうかは、まったくの弊社CEOの想像ですが、やはり正解率は6割から7割くらいで、「真面目に大学の授業を勉強してきた学生」が正答できるような問題を作ってもらわなければ困ると思います。

さて、本論の、新生児・乳児・小児の薬物動態ですが、薬物動態の主役たる薬物代謝酵素は、そのアミノ酸配列が成長するにしたがって変わるわけではないので、なんのことはない、新生児・乳児・小児においては「体重当たりの肝重量及び肝重量当たりの血流速度」が成人よりも大きいから、彼らと成人との間に代謝能の差が生じる、ということが議論の本質になるわけです。

一般的に言って、「知っておかなければいけない、新生児・乳児・小児の薬物動態」としては、CYPの発現に個性があるということで、例えばCYP2D6、2C9、2C19の代謝活性は生後急激に発達して、生後2週間程度で成人のレベルに到達するが、それに比べてCYP3A4の活性はゆっくり上昇する、というようなこと、さらに「血液脳関門の未発達に起因する、クロラムフェニコールの核黄疸発症の危険性」ぐらいは必須でしょう。また「体重当たりで比較すると、幼児・小児ではフェノバルビタールやフェニトインの代謝能が高い」ということも、「成人との代謝能の違い・反例として」は重要です。まあ、弊社CEOの個人的見解としては、この程度のことを知っていれば「薬剤師国家試験に合格する」という意味においては、問題がないと思います。

しかし困ったことに、例えば、選択肢5には、「1~3歳児におけるテオフィリンの体重当たりのクリアランスは、成人のそれより低い。」という文章があります。恐らく、この選択肢を作るにあたって、作問者は「千葉寛、日児誌、95: 1738(1991)」という論文にある「テオフィリンのクリアランスと年齢との関係」のデータをもとに作問したのではないか?(もう少し突っ込んだ話をすると、この論文のデータが載っている、前前問でちょっと触れた「某、程度が高くて難しく、値段の高い教科書」をネタ本にして作ったのではないか?)と、弊社CEOは勝手に類推しているところではありますが、もしそうだとすれば、選択肢5は、研究者が読むような「極めて専門的な重箱の隅をつつくような」知っているかどうかだけの問題であって、「国家試験問題としては、誠に不適切」だと思うのです。他にも、選択肢1番以外はこのような「細かすぎる問題」なのです。この点については、以下でさらに突っ込んだ「弊社CEOの勝手な憶測」をご披露します。ま、「個人の感想」なのですがね。

ということで、選択肢を見ていきましょう。

1.これは、問題文を読むと(知らなくても)特段おかしなことを言っている箇所はありません。赤ちゃんが「ぷよぷよ」しているのは、誰でもわかりますし、従って「体重当たりの体液量」は多いわけです。セフェム系抗生剤は水溶性ですし、赤ちゃんにも投与されるでしょう。ということがら「〇」だとわかります。

2.新生児の腎排泄の話です。普通に考えて、新生児では排泄機能が未発達である(成人に比べてですよ)ことは、容易に想像できます。ただし、問題文の後半にある「・・・成人と同程度になるには5~7年を要する」というところが間違えています。上述した「某、程度が高くて難しく、値段の高い教科書」にも、この問題に関する「新生児における薬物動態に影響する諸因子とその成人レベルに達する時間の目安」なる、「もろ、そのもの!」の表があるのですが、それでは「糸球体ろ過速度は出生後4~8カ月で成人レベルに到達する」となっています(この表の根拠となる論文名の出所は書いてありません)。なので、この教科書が正しければ×ということです。

3.フェニトインの代謝能は生後、急激に上昇する、ということですが、やはり、上記教科書には「年齢とフェニトイン代謝におけるVmax」のグラフが出ていて、その記述から、この選択肢は〇となります。なお、この記述の論文的裏付けは「Chiba K et al、J Pediatrics, 96, 479 (1980)」だそうです。

4.硫酸抱合とグルクロン酸抱合能の発現の早晩を聞いています。もうここまでくると、弊社CEOの「勝手な類推」は、「ほぼ当たっているよな!」と確信に近いものになってしまって、この解説文を書きながら笑ってしまいました。やはり同じ「某、程度が高くて難しく、値段の高い教科書」には、「小児と成人におけるサリチルアミドおよびアセトアミノフェンのグルクロン酸および硫酸抱合体の尿中排泄」なるグラフが出ていて、「小児ではサリチルアミドやアセトアミノフェンを主として硫酸抱合体として排泄するが、成人ではグルクロン酸抱合体が多い」などという記載があります。なのでこの論文が正しいとすれば、×ということになります。この国試問題では「一般に、・・・」と言ってしまっていますが、それでよいのか?例外まできちんと調べて作問しているのか?という疑問が残ります。

5.これは冒頭に書いた通りで、そのグラフからは、生後2歳程度までのクリアランスは成人の2.3倍程度になっています。よって×になります。

このように、ここで弊社CEOが指摘したように、「多分」ですが、弊社CEOの手元にある「某、程度が高くて難しく、値段の高い教科書」が、「ネタ本ではないか?」というのは、あたっているのではないかと思います。(繰り返しになりますが、個人の感想です)

弊社CEOの感覚では、この「ネタ本と思しき教科書」は、レベルとしては大学院レベルの教科書、という位置づけではないかと思います。少なくとも「薬物代謝学」を専門とするような大学院生への教科書になるような本です。薬剤師国家試験というものは、15,000人程度の受験生の中から「大学院レベルの知識を知っている、物知り博士」をあぶりだす試験ではないことは、自明です。繰り返しになりますが、「弊社CEOの憶測が当たっていた」としたら、はやりこの問題は「出題問題をブラッシュアップする段階」で、不適切問題として弾かれなければいけない問題だったと思います。

実は、この100回の国試は、近年まれにみる異例の事態として「問題自体は間違えていないが、正解率が悪かったので受験者全員を正答として扱う」とした問題が十数問あったそうです。現役時代の弊社CEOが出席したある会議では、「このような事態は、国家としての恥じである!」と主張された先生がいらっしゃいましたが、まさしくその通りです。そして、この問169はそのような扱いを受けた問題だったという話です。

ここまでの解説を読んでいただいた生徒さんにはわかっていただけたかと思いますが、誠に「何をかいわんや!」です。

さあ、わかったかな?


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