#3 分布過程のモデル授業


吸収された薬物は、その薬物の「薬効発現部位」まで体の中を移動しなければなりません。「移動する」といっても、有機分子に足が生えているわけではないので、他の何かの助けを借りて移動していくわけですが、それが「血液(血管系)」と「リンパ液(リンパ管系」になるのですね。この中で圧倒的に重要であって国家試験にもよく出てくるものが「血管系」です。すなわち、「薬物の分布過程」とは、薬物が血管系を介して体内に分布し、臓器などに存在する薬効発現部位(例えばレセプター)に到達する過程を表しています。もちろん、リンパ管系を介した薬物の分布も勉強しなくてはいけません。国試にもたまに文章題で理論問題に出題されていますが、詳しいことは実際の授業でお話しします。このモデル授業では血管系を介した薬物の分布に焦点をあてます。

さて、血液の中に溶け込んだ薬物が、血液とともに体の中をぐるぐる回るイメージになりますが、薬物は「ただ手ぶらで血液の中に存在する」のではなく、主には血漿アルブミンのような「タンパク質」と相互作用をしながら薬効発現部位まで分布していきます。では、その「相互作用」とはなにか?ということになりますが、単純な話で「くっついたり離れたりすること」ということです。アルブミンとくっついている薬物は「結合形(ときどき、結合型と書いてある教科書や参考書を見かけますが、「型」は間違いで「形」が正しいです。辞書を見てもらえれば納得がいくと思います)」、アルブミンとくっついていなくて、薬物単独で血液中に存在している薬物は「非結合形、もしくは遊離形」といいます。すごく大雑把な話になりますが、お薬の分子量は500前後です(天然物由来の抗生剤や強心配糖体などは考えません)。一方アルブミンの分子量は67,000といわれています。従って「結合形薬物」はアルブミンとくっついている分、分子量が巨大になり、血管系から外へ(つまり、組織や臓器の本体)へ「沁みだしにくい」ことになります。薬物は「薬効発現部位」に到達して初めて「薬」としての使命を全うするわけですから、結合形薬物は血管系の外に出ることが難しい分、「薬としては意味がない」ことになります。つまり、低分子で血液中でアルブミンと結合していない「非結合形薬物」が、本来の「薬効発現ポテンシャル」をもった「薬物」になるわけです。

ところが、臓器や組織の中には、脂溶性の高い組織など、特定の薬物を結合してしまう性質をもったものが存在しています。当然ですが、そのような臓器における薬物濃度は、血中のそれより高くなりますよね。なので、薬物濃度を血中濃度を基準にして「均して」考えるとどうなるのか?それにより、お薬の体内分布を調べる一つの指標にならないか?という考え方が生まれました。これが、「分布容積(Vd)」の定義になるわけで、お薬のよって、分布容積の値が変わってきます。また、簡単な数式になりますが、分布容積を求める公式も存在し、モデル授業のなかで紹介しています。

分布の項は、ADMEの項目の中で比較的「数式」をもとにした考え方・計算が出てくる項目です。分布の次は排泄のところでしょう。そのことについては、排泄の項で説明します。これらの「数式に基づく考え方・公式」をいくつか挙げてみます。まずは上段でお話しした「分布容積の計算」です。次には「結合定数(K)」の求め方になります。これは、薬物と血漿アルブミン(実は、他のタンパク質についても適応できる考え方)との、「結合する強さ」を計算によって求めるものです。これも国試の計算問題として5年に一度くらい出題されますが、きちんと解き方のパターンが理解できていれば、全然難しくなく、むしろ得点源になるような計算問題ですね。モデル授業の中でも取り上げています。三番目は「ラングミュア式」「両逆数式」「スキャッチャードの式」といわれる、いわゆる「3点セットの式とグラフ」の問題です。これは、きちんと理解するためには90分授業1コマ分くらい使わないといけないので、モデル授業の中では「さわり」をお話ししています。「薬の飲み合わせ」という話を聞いたことがあると思いますが、「薬物相互作用」のことですね。薬物相互作用にはADMEの各過程すべてに存在するのですが、分布過程における薬物相互作用には、しっかり基礎理論を理解したうえで患者さんの前に立たないと、とんでもないことが起こってしまうような「薬物相互作用」があります(他の、吸収、代謝、排泄過程もそうですが)。具体的には、心疾患由来の血栓溶解のためにワルファリンを服用している患者さんが、抗炎症薬のフェニルブタゾンを同時に飲んだらどうなるのか?(出血傾向が発現する)。というような実際の臨床にも、上述した「3点セットの式とグラフ」の理解が重要になってくるのです。

ということで、モデル授業は「ほんのさわり」にはなりますが、これをきっかけに理解を深めてもらいたいと思います。

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