#4 代謝過程のモデル授業


代謝過程は薬物動態学Ⅰ(ADME)の中でも、最も「暗記もん」が多い(というか、全部が暗記もん?)といっても過言ではない分野です。薬が酵素によって代謝され、代謝物になるわけですが、注目する薬物を代謝する酵素の名前を憶えておかなければ話にならないし、代謝物の名前も知っていなければお話にならないわけです。加えて「薬学部」の授業ですから「構造式」まで、最低見てわかるようにしなければなりません。構造式から、その薬物(化合物)や代謝物の大まかな性格もわかって欲しいところです。

さて、生体内で薬物を代謝するのは「薬物代謝酵素群」であり(「群」である点がポイント)、その最たるものがP450(CYP)になります。面倒なことに、CYP(薬物代謝酵素群)には、全体で約50種報告されていますが、国家試験レベル、もしくは臨床レベル(患者さんの前に立つのに必要となる知識レベル)では、CYP3A4, CYP2C19, CYP2C9、CYP1A2ぐらいを最低頭に入れておく必要があります。また、薬物代謝酵素の代表ともいえるCYPは、「1原始酸素付加」を行う、酸化酵素であることも重要ですし、1塩基多型(SNPs)を持つ酵素としての有名です。1塩基多型とは、個人もしくは人種のレベルにおいて、酵素活性の特性に違いがあることを示す遺伝学用語で、薬理遺伝学という分野で出てくる話ですが、国試にも文章題として頻出です。イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジッド)という抗結核薬がありますが、この薬物はNAT2という酵素によって代謝され(他の酵素でも代謝されるが)ます。このNAT2の発現は、日本人集団では高いことが知られています。こういうことを研究する学問が薬理遺伝学です。薬物代謝酵素は、覚えることがたくさんです。「酵素学」的な面から考えれば、薬物代謝酵素の誘導剤はどんな薬物か、また阻害剤には何かあるか?なども重要なポイントになります。また「薬の飲み合わせ(薬物相互作用)」の面から見ると、CYP2C9の誘導剤(リファンピシン)と一緒に他のお薬(CYP2C9で代謝されるような)を飲むと、リファンピシンがCYP2C9を誘導するので、その併用薬の利きが悪くなる、というような知識も、国試対策として、また将来みなさんが臨床現場に行ったときに必要になるのです。

薬物動態学Ⅱ(薬物速度論)では最初から最後まで数式(しかも微分方程式)だらけですが、それに比べたら薬物動態学Ⅰ(ADME)分野は圧倒的に数式は少ないのです。ただ、そうはいってもこの「代謝」過程でも数式・それに伴うグラフと計算問題は出てきます。それは「酵素反応速度論」として薬物代謝を見たときの話で、具体的には「Michaelis-Menten式」を使った計算問題が出てきますね。あと、大学によっては「排泄過程」のところで扱うかもしれませんが、「バイオアベイラビリティー(生物学的利用率)」も、「計算問題」というほど大げさなものではありませんが、薬物動態学Ⅱで出てくる「肝クリアランス理論」で使います。このモデル授業では「バイオアベイラビリティー」のお話をしていますが、Michaelis-Menten式は授業で扱っています。

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