#5 排泄過程のモデル授業


体の中に入った薬物は主に肝臓で代謝を受け、一般的には「お薬」としての使命を終えることになります。平たく言えば「用済み」ということですね。なので、そのような「代謝物」は体外に排泄されなければなりません。この過程を担う臓器が「腎臓」と「肝臓」になります。「腎臓」が「尿排泄」を担っていることは、直感的にもすごくわかりやすいと思いますが、「肝臓」は「薬物代謝の臓器ではなかったでしたっけ?」と思うかもしれませんね。ところが、肝臓も「胆汁排泄」という「胆汁中に代謝された薬物を排出する」という機能を担います。「じゃあ、その胆汁中に排泄される薬物は、どうやって体の外に出ていくの?」という疑問が沸くと思いますが、実は「糞便」すなわち「うんち」になって排出されるのです。まずは、解剖学的に主要な、かつ重要となる二つの臓器(腎と肝)について押さえましょう。

腎臓を使っての排泄は「腎排泄過程」といいますが、それは大きく3つのプロセスによって成り立ちます。①糸球体ろ過過程、②近位尿細管分泌過程、③近位(遠位)尿細管再吸収過程です。ちなみに、これらのプロセスは「ネフロン」と呼ばれる顕微鏡レベルの大きさの構造体によって担われ、その集合体が組織としての腎臓になります。分布過程のところに「血管」が出てきましたが、毛細血管の構造を勉強しましたよね。このように、薬物動態学は「ミクロのレベル」の話が中心です。腎臓移植のように、腎臓そのものを扱うのではないことも、頭の片隅に置いておいてください。

さて、①の糸球体ろ過ですが、これもわかりやすい話で、要は血液中に存在するいらないものを(代謝された薬物など)、尿中に「濾しとるざる」と考えてもらえばよいかと思います。ということは、「低分子」で血中タンパク質と結合していない「非結合形の薬物」が、「濾されやすい」ことになります(実は、薬物分子の電荷も関係する)。ところが、薬物側の「事情」により、ろ過だけでは血中から十分に尿中に移行させられない物も出てくることになり、そのような分子は、血液側から尿中へ「積極的に排出させる」必要が生じます。これが、②の「尿細管分泌」になります。ところで、グルコース(分子量180)とかアミノ酸(平均分子量は100程度)は、何も手立てを打たなければ、①の糸球体ろ過を通り抜け、血液中から尿中に抜けていってしまいます。これらの分子は、体にとってはかけがえのない「栄養源」ですから、尿中に出てしまったものを、再度血液中に「汲み戻す」必要が生じることになります。これが、③の「尿細管再吸収」になるのです。それで、いろいろな薬物や生体にとって必須な化合物は、これらのどのプロセスを使って「排出されるのか?」を考えなければなりません。これは「腎排泄」の話になりますが、お薬によっては代謝を受けにくい薬物もあり、注目するお薬は、腎排泄型か、肝代謝型かをまず覚えておいて、腎排泄型なら、上記①、②、③のどれをつかうのか(実は、ほとんどのお薬は、①+②+③のタイプとなる)も知っていなければならないのです。また②の尿細管分泌と③の尿細管再吸収は、読んで字のごとく「分泌」や「再吸収」を行うわけですから、エネルギーを使う輸送担体(トランスポーター)がその主役となります。

胆汁排泄は肝代謝を受けた薬物の体外への排出経路になります。胆汁は「総胆管」から十二指腸に排出され、小腸、直腸、大腸を通って糞便中に排泄されますが、これらの腸管系には、体内の常在細菌叢があるのですね。無菌ではありません。特に有名なものが大腸菌ですが、大腸菌は菌体外に「β-グルクロニダーゼ」という酵素を分泌しています。この酵素は、「グルクロン酸抱合」を受けて「代謝物」となった薬物から、グルクロン酸をとってしまう(脱抱合という)反応を腸管系の中で行います。すると、せっかく肝臓の中で第Ⅱ相反応でグルクロン酸抱合を受けた薬物が、もとの「活性化体」にもどってしまうことになりますね。このような反応は腸管系(小腸)のなかで起こっているので、まるであたかも「経口投与された活性のあるお薬」がそのまま小腸内に存在すると同じ状況になることになります。そして、その脱抱合された薬物は、小腸から吸収され、門脈を通ってまた肝臓に逆戻りしてしまうことになるわけです。このことを「腸肝循環」といい、モルヒネやクロラムフェニコールなどの薬物が、この経路をとることが知られています。

さて、排泄のところは「算数」が出てきます。それも、微分方程式を使うような(国試では、微分方程式を解きなさい、という問題は絶対に出てきませんが、「概念」をきちんと理解しておかないと、ただの丸暗記になってしまい応用問題が解けないことになります)そこそこめんどくさい「算数」が出てきます。このような「算数」を何に使うのか?というと、「クリアランス」という独特の概念があるからなのです。具体的には「腎クリアランス」「肝クリアランス」、さらにはその発展形である「全身クリアランス」という概念です。わかりやすく平たい言葉でいうと、「腎臓(肝臓、さらには全身)が、単位時間(1分、1時間、1日)に、そこを流れる血液の何L(もしくは何mL)に含まれている薬物を消し去ったか(腎臓でいえば、尿中排泄したか)」というの能力を表す指標です。たとえば「このお薬の腎クリアランスは10(L/h)です」といったら、腎臓は1時間の間に、腎臓を流れる血液10L中に含まれているお薬を尿中に排泄する」ということを表しています。従えって、クリアランスとは、臓器の排泄能力を表す算数的な指標、ということができます。さっきから「算数」という言葉がたびたび出てきましたが、みなさんお察しの通り、ここは「排泄」過程のなかでも、めんどくさい計算問題として国家試験にもよく出てくるところなのですね。

このように、(他の分野も似たり寄ったりではありますが)排泄過程はちょって難しいのです。大学の授業がわかりにくかったら、是非弊社の授業を聞いてみていただければと思います。

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