#7 微分方程式はどう作るかのモデル授業


薬物動態学Ⅱ(薬物速度論)という学問を一言でいうとすれば「未来予測の学問」といえるでしょう。あなたが風邪をひいて熱と痛みがひどい状態です。それで今朝の6時にロキソニンを服用しました。さて、24時間後の血中ロキソニン濃度はどうなっているでしょうか?この問題は「24時間後のロキソニンの血中薬物濃度を測ればいいんじゃないの?治療域より少なかったら追加で飲めばよいし、多かったらしばらく服用を差し控えることだね」という答えになるのでしょうが、その「24時間後という未来の時間に、ロキソニンの血中薬物濃度を、理論的に予測できないだろうか?」と、昔の偉い大先生が考えたんでしょう。それが「微分方程式の立式とその解法」として、薬物動態学Ⅱの中で、薬物の投与方法ごとに(急速静注、点滴静注、経口投与、繰り返し急速静注、繰り返し経口投与)、微分方程式が出てくる理由になるのです。

ではなぜ「微分」方程式なのでしょうか?これは前の「#5 排泄過程のモデル授業」でも少しお話ししたところですが、「お薬を投与したヒトを、客観で気に観測してお薬の効き方を調べるには、時間ごとの血中薬物濃度や、時間ごとの尿中薬物濃度を調べるしか方法がない」からなのです。「なにかわかったような、わからないような話だな」と思うかもしれませんが、「時間ごと」というところが大切です。急速静注した時間を(t = 0)として、1時間ごろに血中薬物濃度を測ると、当然減ってきますよね。つまり「1時間(単位時間)ごとに「薬物濃度」が減るということは、「体内における薬物濃度の減少速度(減少スピード)」を表し、それが「もっとも簡単、かつ正確に、急速静注した薬物の体内動態を知る方法」になるのです。実際、微分方程式では、左辺が(dX/dt)と、「時間に対する薬物量の変化」を表していて、つまりこれは「速度(スピード)」になっているのです。「薬物量」という物理量を「距離」という物理量に置き換えると、すごくよくわかります。「車のスピードが60キロだ」ということでは、「単位時間当たり(つまり1時間当たり)」に、60kmという量(距離という物理量)の変化を伴う「速さ(スピード)」ということですよね。薬物動態学では、この「60 km」が、(例えば)「60 mgという薬物量」に置き換わっただけなのです。

このモデル授業では、最も簡単な「線形1-コンパートメント急速静注モデル」における、微分方程式の立式を、「風呂の水抜けモデル」をもとに解説しています。その際、いろいろなパラメーター(例えば、風呂の水面の高さの水位」、「風呂の表面積」、「風呂の栓から出ていく水のスピード」など)が出てきますが、ここらへんは「ふーん、そういう仮定を置くわけね」と流しておいてもらえば結構です。ただ、3つの式が出ていますが、それらを変形しながら、高校数学ⅡBで習った「極限を使った導関数の定義式」へ落とし込んでいく過程を、是非、紙と鉛筆を使って1度でよいですから自分でやってみてください(動画を止めながら)。そうすると、線形1-コン急速静注モデルでどの教科書にも必ず出てくる微分方程式が現れてくるのです。ということは、逆を返せば、「急速静注」とは、体を風呂桶に見立てて、風呂桶の栓を抜いてジャーっと水が流れ出ていくようなもんなんだな、と理解することができるのです。

さて、このように、いろいろな投与方法ごとに微分方程式を立てていくのですが、薬物動態学の守備範囲はここまでで、これらを解くのは完全に「数学」になります。線形1-コン急速静注と点滴静注くらいは高校数学の知識で解けますが、経口投与は「かなり技巧的な数Ⅲのレベル」もしくは理工系大学の教養課程の線形代数の知識が必要とされます。線形2-コンのモデルに至ってはコンピュータを使わないと解けません。従って、少し込み入った教科書では「・・・この微分方程式を解くと・・・と解が得られる。」などという記述が散見され、これは「理屈はいいから丸暗記せよ」といっているようなもので、弊社CEOとしては、「誠にいかがなものか?!」という残念な気持ちになってしまいます。もちろん、薬剤師国家試験理論問題の「計算問題」では、解くためには数式の解を暗記するのが、試験に受かるために必要になるのは言うまでもありませんが、「理屈」が納得できるような勉強を心がけていただくことが重要だと思います。

ということで、「#6 薬物動態学に出てくる微分の考え方」のモデル授業動画では、「風呂の水抜きモデル」を使って、線形1-コン急速静注モデルでは、どのような考え方をもとにして微分方程式を立式していくのか、そしてそれを解く(微分方程式を解くということは、積分解を求めるということです)方法論はどうなているのか、に焦点をあてて概観的な授業を行っています。是非YouTube動画を見て勉強してください。

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